全財産は・・・
我が家の休日、何気ないひととき。
テレビを見て、大笑いする夫と長女。
夫は長女のお尻をポンポンと叩いた。
これ、共感して欲しい時、人がよくやる行為。
ところが、お年頃の長女は、共感するどころか、
父親をギロリと睨んでこう言ったわ。
遠い昔、お年頃の娘だった私にも覚えがあること・・・。
でも、父親はそんな娘のひと言に深く深く傷つくのだった。
そして、傷ついた夫は、今度は妻に話をふった。
でもね、私だって忙しいのよ!
どこのおかきだなんて、
そんなのとっくに忘れちゃったわよ。
妻にまで、虐げられる可哀想な男。
その時だった。
夫の耳に天使の声が・・・
「パパ~」
そのかわいい声の主は、
寂しさで震える夫の体にそっと手を回したわ。
男のやさぐれた心は瞬時に癒され、
夫は目を潤ませながら次女を抱きしめた。
そして、夫はこう言った。
一体何を決めたっていうわけ?
全財産?
「あぁ、そうだとも!」
それを聞くや、次女は飛び上がって喜んだ。
次女のそんな姿を見て、
夫は満足げに私たちの方をチラリと見たわ。
『いいんだな?』その目は物語っていたわ。
でもさ~、いいんだな?と言われても・・・
あっけなくスル―。
そんな私たちの態度を見た夫。
でもね、それからも、夫は懲りもせず、
次女に優しくされるたびにこの言葉を繰り返した。
私と長女はそれを聞いて、
ただただ呆れるしかなかったわ。
でもね、言っている本人も、
私たちの冷たい反応をわかっていて、
わざと面白がってその台詞を口にしている節もあった。
ところが、ある日のことだ。
お茶をいれていた長女が夫に声をかけた。
それを聞いた夫は・・・
心が震えるくらい嬉しかったらしい。
そんな夫を見て、長女は言ったわ。
もちろん、ふざけてのこと。
この頃になると、夫の「全財産」発言は、
我が家の冷めた笑いをとる格好のネタになっていた。
だから、夫もそれに応えて芝居じみた調子で言ったのよ。
ここで、私たち3人は大笑いして、
このコントは終わるはずだった。
ところが・・・
それを遠くで聞いていた次女が、
足をバタバタさせて、泣きじゃくっているじゃないの!
はい?
「全財産をよこせ」と泣き叫んでいる5歳児ってどーよ?
あなたが軽はずみに財産なんて言葉を
口にしていたせいよ!
一体、どう収拾つけるつもりよ!
そう私が夫を非難していると、
長女がカツカツ次女のところに歩いて行った。
そして、「財産をよこせ!」と号泣している
次女に向かって何かを言った。
すると、あら? 次女はすぐに泣きやんだじゃない?
ぺーちゃん、
あなた一体、なんて言った?
訝しがる私たちを尻目に、
至って冷静に長女は言ったわ。
「そんなの簡単なことよ。私はただね、こう言っただけよ」
ほーら、やっぱり。
だから、私は教えてあげたの。
「竜ちゃん!!」
「全財産は食べられないから!」
あの日以来、
すっかり財産に興味がなくなった次女。
至って健全な5歳児に戻ったわ。
めでたし、めでたし!
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昨晩、長女とクマのチョコレートクッキーを焼きました。クッキーにチョコペンで『命』と書いたら、長女に「ママ、なに、バレンタインに関係ない真面目なこと書いてるの? マイコ―の影響?」と言われ、今どきの子が『命』のその意味を知らないことを知った。「よっちゃん命! ママはどれだけこの言葉をノートに書き綴ったか!」と教えてあげると、「ダサっ」とひと言・・・。さよなら、私の青春。
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