小学校5年生の長女がこんなことを言い出したのは、

夏休みも残りわずかとなったある日のことだった。


あたし・主婦の頭の中


雑誌には原宿にある激安アクセサリーショップが載っていた。

キラキラしてラブリーな物で溢れる店内、

いかにも長女が好きそうな店だった。


そうか・・・

あなたも自分から原宿に行ってみたいと言う

お年頃を迎えたのね・・・。思い出すわ~


あたし・主婦の頭の中


年頃の女の子にとって、

原宿=竹下通りは特別な思い出があるものよね?


あれは、ママが高校1年の時だったわ。

それまで、親に連れられて表参道とか歩いたことはあったけど、

子供だけで原宿に行くって決めた日。

あのワクワクした気持ち、今でもよーく覚えてるわ。

数ヶ月先のカレンダーにしっかり印をつけて、

その日をどんなに待ちわびていたことか・・・。



あたし・主婦の頭の中


原宿と言ったら・・・そう!

テレビや雑誌のインタビューでよく見るアイドルのこんな話。


あたし・主婦の頭の中


そうよ! 原宿といったら、スカウトよ!

ママはね、当時すごいデブだったんだけど、

流行の50‘sの衣装に身を包んで、

どっから見ても『ナウい』女の子になって、原宿デビューに臨んだわ!

そうそう、原宿駅に着いた途端、

やたらと自意識過剰になっちゃったりして・・・。


あたし・主婦の頭の中


道行く人が皆、スカウトマンに見えたものよ~



あたし・主婦の頭の中


でもね、なかなか声をかけてもらえないのよ!


あたし・主婦の頭の中



えっ? そのルックスじゃ到底無理?

そうね、それに気がついたのは、それからたいぶ経ってからのこと。

わかる? 思春期って、

恐ろしいくらい自分の可能性に自信があったりするものじゃない?

えっ? そうだとしても、身の程知らずって?

フン、何とでも言って!


あたし・主婦の頭の中


ママと2人で竹下デビューよ!

ところが、それを横で聞いていた夫が口を挟んだ。


あたし・主婦の頭の中


案の定、長女は・・・


あたし・主婦の頭の中


そう、必死で断ったんだけど・・・


あたし・主婦の頭の中


ストーカー親父は有給まで取って、

長女の竹下デビューに同行すると言って聞かなかったけど、

この際、パパは放っておいて・・・

竹下デビューは、夏休み最終日の8月31日に決定よ。


しかし、当日は雨だった。

いや、雨なんて可愛いらしいものではなかった。

東京に台風が近づいていて、朝から外は激しい雨。

こんな雨の中、わざわざ原宿に行かなくても・・・



あたし・主婦の頭の中


この日を何より楽しみにしていた長女は

こんな台風の中でも絶対に行くんだと言って譲らない。

すると、しっかり有給を取ってスタンバイしていた夫がこう言った。


あたし・主婦の頭の中


理解ある父を演じることで、夫は長女に同行を許されたのである。

年頃の娘を持つ父親というものは、娘に好かれようと必死なのよ。


下の子は、こんな雨の中大変だからと預け、

私たち3人は大雨の中、原宿に着いた。


あたし・主婦の頭の中


雨は激しく降っていた。

初めての竹下通り、娘の目にはどんな風に映ったの?


うん、わかっていたことだけど、

娘には、どんな土砂降りの雨だって関係なかった。

すぐに可愛いお店を見つけて、駆け出して行く。

ワクワクが抑えきれないって感じに。


あたし・主婦の頭の中


私たちも娘に続き、店に入ったのだけど・・・

余りにもラブリーな店内に、42歳の中年男は完璧に自分の居場所を失い・・・


あたし・主婦の頭の中


そうして、1人土砂降りの雨の中、

外で店から出てくる娘をじっと待つ・・・。

しかし、やっと娘が店から出てきたと思っても・・・


あたし・主婦の頭の中


長女はすぐに次の『最も中年男が似合わない店』に

駆け込んで行くのであった・・・。

あぁ、年頃の娘を持つ世の父親って・・・悲しいものね。


娘とある店に私は入った。

詳しくは支障が出るから書けないけど、

その店は、たくさんの種類が商品があって、

貼りだされた商品の見本に番号が記されている。


あたし・主婦の頭の中


長女は目を輝かせながら、


あたし・主婦の頭の中


どうやら、その店のシステムは、

壁に吊るされた箱の中に入っている紙に、

自分の欲しい商品番号を書いて、店員さんに出すようだった。


そうすると、パチンコ屋の景品交換所みたいな小窓の奥が倉庫になっていて、そこから頼んだ商品を店員さんがピックアップして受け渡してくれるようだ。

早速、娘は自分の欲しい番号を紙に書いて受付に行った。


あたし・主婦の頭の中


すると、中から、怒った時のまちゃまちゃを彷彿させるような女性が、

やる気なさげに顔を出した。かなり迫力がある女性だ。

そして、娘の差し出した紙を手に取ると面倒くさそうに・・・


あたし・主婦の頭の中


奥の倉庫に消えて行った。


あたし・主婦の頭の中


しばらくして戻ってきたまちゃまちゃの手元には

3つの商品が並べられていた。


あたし・主婦の頭の中


すると、それを見た長女が言った。


あたし・主婦の頭の中


1つだけ自分が頼んだ商品じゃなかったようなのだ。


あたし・主婦の頭の中


まちゃまちゃは娘に問いかけた。


あたし・主婦の頭の中


後で、わかったことだけど、その棚の中には、

書き損じの紙もたくさん入っていて、

よくわかっていない長女は、誰かが書いた番号の下に

そのまま自分の欲しい番号を書いて出してしまっていたようだった。


「私は2つ、書いたんですけど・・・」

まちゃまちゃの気迫に押され気味の長女は、

蚊の鳴くような小さな声でそう言った。


すると、まちゃまちゃは言った。吐き捨てるようにこう言った。


あたし・主婦の頭の中


「ちゃんと消してよ!」


それを聞いて、今にも泣き出しそうになって、謝まる長女。


あたし・主婦の頭の中



私の体内で熱いマグマが次々と燃え上がっていく。

なんだ? その言い方は?

いや、私に対してだったらいい。

「なんかこの店員さん、感じ悪いわ~」の独り言で

さらりと済ませてもしまっても構わない。


でも、今日は娘の原宿デビューの日なのだ!
娘がどんな思いで、今日のこの日を待ちわびていたことか!!

ついに熱いマグマが噴火口から噴出してくるのを

私は抑えることができなくなった。


あたし・主婦の頭の中


だって、ここは原宿・竹下通りなんだから!


何度だって言うわ。

年頃の女の子にとって、初めての竹下通りは、

初めての竹下通りはね!!

そうよ、42歳になった今でも忘れられないくらい大切な思い出になるんだから!!

折角の原宿竹下デビューが、こんな思い出になっちゃっていいの?

それにだ! ここで注意しておかないと、これから長女と同じように、

竹下通りに憧れてやってくる若い女の子たちが、また同じ嫌な思いをしたら・・・イヤなのよ、私は! 

竹下デビューは最高の思い出にしてもらわないといけないのよ!


この行為をモンスターペアレンツを言うなら言って!


あたし・主婦の頭の中


私は言った!

「書き損じがたくさん入っていたの! 

わからない子だっているの!

手こずらせてしまったのは、申し訳ないけど!」


あたし・主婦の頭の中


まちゃまちゃだって、これで少しはわかってくれたわよね・・・?


あたし・主婦の頭の中


ところが!!


まちゃまちゃは、まちゃまちゃだった。

さっきよりさらに怖い形相をして、

店の袋に入れた商品を無言のまま私に突き出してきたじゃなの。


あたし・主婦の頭の中


まったく・・・通じず。


あたし・主婦の頭の中


禁煙エリアでタバコを吸っている人に向かって

「ここ、禁煙ですよ」と注意したら、

タバコを消すどころか、すごい形相で睨まれて

煙をプッカ~っと吹きかけられた感じって言ったらいいの・・・?


あたし・主婦の頭の中


結局、長女にも「ママ、恥ずかしいからやめて~ママも怖いよ!」

となだめられ、すごい敗北感で店内を出るはめに・・・。


わかってよ! これが母心っていうものなのよ! ぺーちゃん!

ママはさ、あなたに最高の原宿デビューの思い出を

残してあげたかっただけなのにーーー!


店を出ると・・・

そこには長時間、大雨に打たれ、ボロ雑巾のようになった夫が立っていた。

ズボンはかなり高い位置でツートンカラーの模様になっている。


あたし・主婦の頭の中


こんな夫の姿を見て、

「だから、パパはついて来ないでいいって言ったのに!」

降りしきるこの雨のよりも冷たい長女。

それでも夫はこんなことを笑顔で言うのだった。

「ぺーちゃんが楽しそうにしているのを見ているのがパパは好きなんだよ・・・一緒に来られて、パパはすごく幸せだよ・・・」


私はそんな夫を見て、心の中で長女に対してこう思ったのですよ。


原宿竹下デビュー。

ぺーちゃんがもう少し大人になって、今日のこの日を思い出す時、

きつい店員の怖い顔じゃなくて、ママの怒った姿でもなく・・・

大雨の中、嬉しそうにあなたをずっと待っていた

可哀想なパパの姿を一番に思い出してくれたらいいなって・・・。

そしたらね、あなたの原宿デビューだって、

ちょっとステキな思い出に変わるんじゃないかって・・・。



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今、長女はちょっと親離れしたい年頃。私の小言にあからさまに嫌な顔をしたり、パパを疎ましく思う年頃。

時にはそんな長女に腹を立てることもあるし、夫が何だかもの悲しく映る時もある。でも、同じ娘をしてきた私は、今の長女の気持ちがよーくわかる。私もね、父を疎ましく思った時があったし、母親にも悪態ついてた時もあったから。でもね、段々と親のありがたみに気づくときがくるんだよね。私の場合はね・・・


↓こんなことがきっかけだったの。今思い出してもちょっと切ない・・・
あたし・主婦の頭の中

『母のママゴコロ あたしのママゴコロ』よかったら読んでね!


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前回の記事にもたくさんのコメントをどうもありがとうございました。そして、義父へお悔やみのお言葉もたくさん頂戴し、本当にありがとうございました。同じ経験をされた方からの励ましのお言葉も、大変勇気づけられました。

あかる・・・今日も食事、トイレ以外は、ずっと寝ていました・・・。今も娘たちの寝室(レディースルーム)で、娘たちと一緒に早々と寝ています。あんた、夜行性じゃなかったの?

では、今日も最後まで読んで下さり、ありがとうございました。