そう、あれは、ロサンジェルスへ向かうフライト。


あの日、同期のMちゃんと私は、

乗務しながら、ため息が止まらなかった。






Kと一緒のフライトだった?


いいえ、

今回は、仲の良い同期と一緒のフライト。


じゃ、なんでこんなに私たちはため息ばかりついているの?






そうなのよ、前日のフライトで、

Kが先にLA入りしていたのよね。


Kが私たちの到着を今か今かと待っているわけ。

もちろん、生け贄鍋の湯をぐつぐつさせて・・・。






今夜の夕食は、嫌でもKを誘わないと

あとで何をされるかわからないわ。



ホテルのフロントで、

Kの部屋を調べて・・・

いざ、Kの部屋に電話をかけようとするも・・・。






激しい譲り合い。

3分以上、そんなことの繰り返していた。


なんたって、Kに電話をして、

今まで怒られなかったためしがない。


「お疲れ様です」を先に言えば






と怒鳴られ、


かと言って、名前を先に言えば・・・






要するに、何を言っても怒られる。

なぜなら、それがKという人!


譲り合いは、一向に終わる気配もなく、

私たちはジャンケンで決めることにしたわ。

これが、20代の女の子のすることかしら?






でも、真剣勝負なのよ!






受話器を握るMちゃんの手を、私はしっかり握りしめる。

まるで立ち合い出産する時の夫の役割?






Mちゃんが震える指で、Kの部屋番号を押したわ。


案の定、しょっぱなからMちゃんは怒られている様子。






大丈夫よ、Mちゃん。

あなたに落ち度は何にもないから!


謝り続けたMちゃんが、

あら? 途中からメモを取り始めたじゃないの。


と同時に、Mちゃんの眉間からシワが

消えて行くのがわかったわ。


そして、受話器を置いたMちゃんは言ったのよ。






なんてこと~~! 

これで私たち、もう自由の身ってことね!


ところがだ!

Mちゃんはメモを差し出して言った。






Mちゃんが書いたメモを見ると

ホテルからずいぶん離れたレストランの名前が・・・。


冗談じゃないわ!


と言いたいところだけど・・・


その日の夕方、私たちはもちろん

タクシー飛ばして、レストランに向かったわ。


そして、レストランに着いたら、

Kに頼まれた食事を包んでもらい、

またタクシーに飛び乗りホテルに向かった。






ホテルのKの部屋の前・・・

さっきまでの勢いはどこ?


チャイムに伸ばす指が・・・






そして、ついに押したのよ!


ピンポーン。


ドアに近づくKの足音・・・。





ついに、部屋のドアが開いた!






Mちゃんと私は同時に顔を見合わせたわ。

そして、改めて部屋番号を確かめたのよ。


確かにそこは、紛れもなくKの部屋・・・。


でも、おかしいのよ。

ドアから顔を出したのは・・・






その人物は、私たちに向かって怒鳴り出した。






えっ?目を閉じれば、その声には聞き覚えがある。

Kの声、怒鳴り方にそっくりよ。


もしかして・・・あなたは、K?


でも、あまりのギャップに、

Kと目の前の人物が繋がらないのよ。





目の前の垂れ目で童顔の女性は

手渡されたレシート見ながらまくしたてる。





一通り、説教が済むと、

Kは自分の用意していた食事代を払うとドアを

力任せにピシャリと閉めた。





まったくもって怖くはなかった。


文句をいいながらも食事代は払ってくれたが、

タクシー代なんてKの頭の中にはまったくなく・・・

でも、私たちはとても満足していたわ。


だって、それ以上のもの見せてもらったから!!





あの顔が見れただけでも、儲けもんよ。

だって、あのスッピン知っちゃったら、

これからKにどんなに怒られようと、

絶対に怖くないはず!


そう言って喜んでいたのに・・・。


あのはしゃぎっぷりはなんだったの?

翌日、フルメークで現れたKを目の前にしたら・・・






やっぱり怖くて~怖くて~

ちびりそうになるのを必死で堪える私たちであった。

あぁ・・・。




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先日、同期4人とランチしました。さすがにKの話は出なかったけど(楽しいランチ会だったゆえ)、皆、すごく明るくて、根性あるの。これもKの生け贄フライトのお陰かしら?と思ったりして・・・。だからといって、Kに感謝なんてしないわよ~。だって、あんな怖い思いなんかしたくなかったもの!