チラシってもらいますか?
私地元の駅には、外国人が経営するカレー屋さんの
チラシ配りの青年がいつもいて、
道行く人にせっせとチラシを配っている。

私はいつも遠くに彼の姿を見つけるや・・・
チラシをもらうべきか、もらわないべきか迷ってしまう・・・。

学生時代のことである。
短期間で何かいいアルバイトはないか・・・
求人雑誌で探していた私の目に飛び込んできたある広告。

まだ時給600円くらいが平均だった当時としては
破格の時給。

たった2日間だし、時給1000円だし、
チラシ配りの簡単な仕事だし、私は決めた!

早速、電話連絡したら、
「当日、事務所に履歴書と丈夫な紙袋を持ってきてください」
と言われ、その場で採用。
なんだ楽勝の採用じゃない!
そして、私はアルバイト初日、
すごいやる気満々で、その事務所に行ったわ。
そこには、私のようにやる気に満ち溢れた若者が
朝からたくさん集まっていた。

その場で持参した紙袋にチラシを詰められた。
そして、係りの人の説明が始まった。
こらから、それぞれ言われた勤務地の街頭でチラシを配ること。
1人に対して、1枚のみ! 複数枚配らないこと。
監視員が巡回しているから、
ズルをしたら、その場で帰ってもらうこと。
もちろん、それまで働いた時給分は支払われない。
10時から始めて、中1時間休憩を挟んで6時まで。
わかりましたね! では、皆さん、出発してください。
チラシを見ると・・・全然面白みのない住宅の広告だった。
紙袋に入れられたチラシの数ったら・・・
3000枚はあったかな・・・いやそれ以上?
とにかく、大きな紙袋はチラシでパンパンだった。
私の勤務地は新宿。
私はその重いチラシの入った紙袋を持って、
電車に乗り、新宿へ。
重かった! ホントに重かった!
どーりで集まったメンバーに女の子がいなかったはずである。
普通の女の子は、きっとこの紙袋さえ運べないだろう・・・。
でも、私は大丈夫。体力だけは自信があった。

そうよ! ここは新宿だもん!
ほら、こんなにたくさんの人が行き来している!
この人たちに配っていたら・・・
あっという間にノルマ達成よ!

私はすぐに仕事に取り掛かった。
あっ、早速来たわ! 前方から・・・

そう思ってチラシを1枚差し出すと・・・

何なの? 優しそうと思っておじさんが、
迷惑そうに身をかわして行ったじゃないの!
まぁこんなこともあるわよね・・・。

そう思ってチラシを一枚差し出すと・・・

えっ? このおばさんまでそんな態度を?
それからも、いくら「お願いします~」と行きかう人に
チラシを差し出しても、誰も受け取ってはくれなかった。
すでに数時間が経ったけど、
チラシを受け取ってくれた人なんてホンの数人・・・
まだ紙袋の中には大量のチラシが残っている。
あぁ・・・道行く人が皆、幸せに映るのはなぜ?
気がつけば、マッチ売りの少女気分よ・・・。

途方にくれて、泣きたくなったその時だった。
「ちょっと君・・・」「えっ?」

目の前に立っていた爽やかなサラリーマンのお兄さん。
イヤイヤ受け取る人はいたけど、
自ら進んで、このティッシュでもない、うちわでもない、
住宅のチラシをもらいますよって??

嬉しくて、感動しながら差し出した1枚のチラシを前に
彼は続けてこう言ったの。

えっ?
ひゃ・・・ひゃ・・・100枚って今、言いました?

今だったら、100枚と言わず、200枚でも
持って行ってちょーだい! と言いそうな汚れた私だけど・・・
あの頃の私はまだすごく真面目で・・・
サラリーマンの親切に戸惑っていると・・・
彼は「大丈夫、誰も見ていないから! さぁ早く」
と言って、持っていたバッグを開いて私に差し出した。

大丈夫、捨てたりしないから。
ボクが会社に行って、社員にせっせと配るから。
だったら、大丈夫でしょ?
もしかして・・・あなたは紫のバラの人?
私は100枚はなかったけど、片方の手に持っていた
数十枚のチラシを彼のバッグに入れさせてもらった。

そう言うと、そのサラリーマンは
爽やかにその場を去って行ったのだった。

今でも思う。
あれはしてはいけないことだったのだけど、
でも、私は世の中にはなんて心優しい人がいるんだろうと
あのアルバイトをして学んだこと・・・。
あの日以来、私は街でチラシ配りの人がいると、
できる限り、チラシをもらうようにしている。

だから、あのカレー屋さんのチラシも、
いつも差し出されれたらもらうようにしていたんだけどね・・・
でも・・・私はほぼ毎日のようにあそこの前を通るわけで・・・
そう、いつしか家には・・・

こんなにたくさんのあのカレー屋さんのチラシが。
彼が単なるアルバイトの青年だったらまだいいけど。
でも、もし彼のお店だったとしたら、
このチラシだって、印刷代がかかっているわけで・・・
こんなにチラシを独り占めしても申し訳ないわけで・・・
それに彼のお店は今まで何回も行ったことがあるわけで・・・
だからね、私はある日、意を決してこう言ったの。

正直に断ってみたの。
「もうもらったからいいわ」って。
そしたら、どう?
彼にはもらわない口実のように聞こえたみたいで・・・
私は聞いたの、彼がポツリと呟いたその言葉を・・・

心から寂しげに呟いたの。
「ホントニ・・・オイシイノニ・・・」って。
その言葉を聞いたら・・・
急に彼が子犬のように見えてきちゃって!!

ごめん! ごめん!
チラシ1枚受け取らない私がいけなかったわ!

急いで彼の元に駆けつけて手を差し出している私がいたわ!
でもね・・・家に帰れば・・・そうなの!

そんなこと繰り返しよ・・・。
どうしたらいいのかしら?
このまま毎回、彼から差し出されるまま、
チラシを受け取り、カレー屋チラシ収集家になるべきなのか?
それとも・・・

またこんな風に言われたら、

と断り・・・く~んく~んの子犬顔で疑われないようにも、
IDのように、もらったチラシを首からぶら下げておくべきなのか?

そしたら、彼も信じてくれて、笑顔で手を振ってくれるかしら?

毎日、駅を通るたび、
彼の姿を見つけては・・・すごく悩む私である。

チラシ1枚でこんなに悩む私はちょっと変なのかしら?
皆さんは、街頭で配っているチラシって普段受け取ってる?
それともスルー?
ツレテキウマシタ!」と言ったものの、低い鼻と大きな唇で「ぺーちゃんのママだ!」「キャサリンじゃない!ぺーちゃんのママだ!」といきなり子供たちにバレバレだったんですが・・・ね。
では、今日も最後までお付き合い下さり、ありがとうございました。


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