ひと夏のライダー
あれは20歳の夏のこと。
夏休みの間、田舎に帰省する友人が
その間だけ原付バイクを貸してくれることになった。
50ccのスクーター。
しかし、それに跨れば、なぜか気分はレディース。
心の中で♪パララン パララン~♪ という効果音を響かせ、
「あたいに触れたら火傷をするぜ!」的オーラを放ちながら、
近所を爆走していた。
と言っても、制限速度の30キロで・・・。
(こーゆーところ、妙に小心者だったりする)
↑って、あんた、すでに大人だよ! って?
当時住んでいたマンションは大きな街道沿いにあった。
この交差点を越えたら・・・
と思ったその瞬間!!
いきなりすごい振動が私の体に伝わってきた。
事態はすぐにつかめた。
右側を通過していた車がいきなり左折してきたのだ。
その車に巻き込まれたのである。
ガガガ・・・ガガガ・・・と車体に体を打ちつけながら・・・
その時、私の頭の中には
映写機で映し出したような白黒フィルムが流れ出されたのだった。
すごく鮮明に覚えているんだけど、
小さかった時の夜祭の場面だったり・・・
風に揺れる風鈴や・・・昔飼っていた犬の顔や
子供の頃に住んでいた家・・・
今振り返れば、私が車に巻き込まれ、
跳ね飛ばされるのに、そんなに時間は掛かってないと思う。
きっと傍で見ていた人は、あっという間の出来事だっただろう。
でも、当の本人は、
まるで時間が止まったように、頭の中を子供の頃からの
思い出の画像が途切れることなく流れ・・・
「何でよりによって夏休みによ?」
「私、このまま死ぬの?」
いろんなことを思っていた。
そう思っているいる間も、画像は流れ続けた。
そして、今現在の私に追いついたところで・・・
気がつけば、私は道路に倒れていた。
生きていた・・・
私は車に巻き込まれながら、
↓ここまで飛ばされてきたようだった。
すぐに人が駆けつけてきた。
たぶん、私にぶっかった運転手だろう・・・。
私は薄目を開き・・・相手を見た。
よく見えないわ・・・。
しばらくして私の目に映ったのは、
怯えながら私の顔を覗き込む端正な顔立ちの男性。
あなただったの?
まるで、ドラマの中の話みたい・・・。
ちょっと痛い目にはあったけど、
神様はこうして彼と出会うシナリオを用意されていたのね・・・
ここは神様のシナリオに従うしかないわ。
私は再び目を閉じるの・・・。
気を失っている私を彼は抱き上げ・・・そうして言うわ。
「取り返しのつかないことをしてしまった。
こんな美しい女性にケガを負わせてしまって・・・。
俺が一生責任を持って、君を幸せにするから」と・・・。
ところが、どう?
神様はなんて意地悪!!
目の前に現れたのは・・・
そうなのだ。私が巻き込まれたのは、
職人のおっさんがたくさん乗ったワゴン車だった。
現場の仕事が終わり、帰る途中だったという。
私は気丈に言った。
と立ち上がろうとしたものの・・・
その時、見てしまった。自分の膝の傷を!!
大したことはなかったと思っていたけど、
膝の皮がべろんと捲れ上がり、
中から白い脂肪がむき出しになっていた。
逞しい職人のおじさんたち数人に抱えられながら、
私は自分のマンションがすぐに見える歩道に座らされた。
しばらくすると、警官がきて・・・
私からも事情を聴いたりしたんだけど、
「君はそこにいていいから。
先方の巻き込み確認ミスだから・・・」
と言って、私は歩道にずっと座らされていた。
何もすることもなく、通行人からは好奇の目で見られ・・・
そんな時、私の目の前を
寿司屋の出前の自転車が軽快に通り過ぎて行った。
私は思った。
はぁ~
どこかの家ではお祝いなのね~
あぁ、私がこんな目に遭っている日でも、
楽しげにお寿司を食べる家があるんだ・・・
ちょっとセンチになってみる。
携帯電話もない時代・・・
なかなか帰ってこない私のこと、
きっと心配しているだろうな~。
それから、私は職人のおじさまたちに手を貸してもらいながら、
歩いて病院に行った。
救急車に乗らなかったのかって?
うちのマンションの前が、救急病院だったのと、
そんなに大したケガでもなったので、
救急車は要りませんと断ったのだ。
病院で手当てをしてもらい、
ようやく家に帰れることになった私。
家族は心配して玄関に急いで出てくるだろうな・・・
と思いきや・・・玄関に姿なし!
ヨロヨロとリビングに向かった私の目に
飛び込んできたものは!!!
楽しげにお寿司をつまむ家族の姿!
もしかして・・・あの寿司って・・・
うちが頼んだ寿司だった?
あぁ、私がこんな目に遭っている日でも、
楽しげにお寿司を食べる家があるんだ・・・
って、 我が家だよ!
追記:
そうなんです。梅さんうちにお寿司を届けていました。
お祝い? いや、母が単に食べたくなっただけと。
その後? 私は同情されるどころか、母にすごく怒られました。
そう、出前のお寿司を食べながら・・・。
あの夏以来、私はバイクには乗っていません・・・。
ひと夏のライダー(完)
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前回の記事にもたくさんのコメントをどうもありがとうござました。家電にも心がある・・・わかって頂けて嬉しい。でも、アンケートで、地デジ対応テレビのすごい普及率に驚きました。って、薄々わかっていたけど、やっぱりこんな箱置いてる家って少ないんですね・・・。でも、まだ年内はうちの存在感のあるテレビ君に頑張ってもらう予定です。でも・・・エコポイントが得なのか、それとも2011年ギリギリまで待った方が得なのか、一説にはギリギリになるとクリスマスのイチゴ、母の日のカーネーションみたいに強気価格になるとも言われてない?迷うところです。
では、今日も最後までお付き合い下さり、ありがとうございました。
コメント
コメント一覧 (1)
まだ俊敏だった私は自転車を放り投げて雑木林にダイブ。私は無事でしたが、自転車は見るも無惨にひしゃげました。
トラックから降りてきたお兄さんは「大丈夫?」と言ってはくれましたがそのまま立ち去り、私は咄嗟に車のナンバーを暗記してもはや乗れなくなった自転車を引きずって帰りました。
それを見て母は大変ビックリし、私が⚪⚪運送の車のナンバーを伝えると「うちのあこたに何してくれてんねん!子供やと思ってなめたな!」と運送会社にTEL。その日にすぐ社長さんとドライバーさんが謝りにいらして自転車代にしてくださいとお金を置いていかれました。
母と自転車を買いに行ったらお釣りがでて「あこた、この際やから空気入れも買お」と。
母は強し。